江戸時代から続く老舗醤油屋
2011年東日本大震災という未曽有の災害がおこりました。その悲劇から立ち直った、ある企業についてお伝えします。その会社の名は、株式会社八木澤商店。醤油の製造・販売を行う会社です。社長の名は河野通洋といいます。
八木澤酒造が創業したのは1807年。文化4年という江戸時代のことです。大正時代に酒だけではなく、しょうゆ醸造業を兼業し現代の業態になっていきます。その後、戦争期を経て1960年に株式会社八木澤商店となりました。天然醸造方式というこだわりの手法で醤油を製造する数少ない会社でもあります。天然醸造方式とは、大量生産を見据えて機械による加熱を利用して醤油製造をするのが主流の中、自然の気温の力でもろみを醗酵し熟成させるという昔ながらの醸造方式のことです。
残っていた「もろみ」
岩手県一関市にある株式会社八木澤商店は、東日本大震災により大きな被害を受けましたた。150年もの長きに渡って使い込まれた気仙杉の木桶ごと、津波が工場のすべてを流し去ってしまったのです。打ちひしがれる社員たちを前に、河野通洋社長は決してあきらめなかったといいます。ただの1人も解雇することなく、再建に動き出したのです。とはいえ、工場だけでなく醤油をつくる上での命である「もろみ」も流されてしまった以上、打つ手は限られていました。
そんな時、後に社長が「奇跡」だと振り返るある出来事が起こります。震災前に地元の水産技術センターに、微生物研究のために預けた「もろみ」が残っていたと連絡がきたのです。震災翌年の2012年に新しい工場を建てて、生き残っていた「もろみ」を引き取ります。社員たち全員で丹念に育てて、震災から3年8ヵ月後に醤油が出来上がりました。「奇跡の醤」と名付けられたその醤油は、ゆっくりと熟成された深い旨味と奥深い味わい、そして背後に隠されたドラマに魅せられた人々が買い求めることになります。
地域とともに
河野通洋社長は1973年生まれ、地元である岩手県陸前高田市出身です。工場新設に加えて、新商品の開発を目指しています。また、震災からの復興だけでなく発酵調味料の歴史と効果を通じて食の大切さを人々に伝えるという食育活動にも熱心でもあります。
しょうゆ、味噌、つゆなどの製造販売を通じて地域に根差す会社であり続けること。そして会社と共に地域が成長し、復興していくことが大切だと語ります。震災以前の光景には戻れません。でも、ふるさとに人が帰ってきて、新たに再構築していく姿を見守るのが今の社長の楽しみであり希望でもあるのです。
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